気まぐれすとーりーず
1投稿者:名捨て人@御昼です  投稿日:2003/05/01(木)12:01:46
頭の中に沸きあがってくる話をとり止めなく綴ります。
長編なのかエッセーなのかエロいのか…心の赴くままに!
登場人物、団体名は実在のものとは何ら関係ない・・・・・・と思う。
50投稿者:再会45  投稿日:2004/01/19(月)20:57:11
「上手いこといけば、それこそすぐに寿退社、てなことになるのかな。」
僕はデスクの上のパソコンのキーボードを無機質な音を立てて叩きながら
ぼんやりと考えていた。

「自分自身の気持ちを確かめたい。」っていうのはどういう意味だろう。
水谷和美は自分が本当に彼のことを好きかどうか分からないのか、
そもそも「好き」って何だろう?
「すごく好き同志」が結婚した筈なのに何故簡単に離婚するんだろう。

どうでも良いような考えが頭を巡り、時間は結構過ぎていた。
彼女はあれからすぐに帰宅していたのでもう職場には自分独りだった。
「まあ、悩めるいう事は好きな訳であってやな・・・」
「でもまあ、心いうのは流れる水のごとし、とも言うわなぁ。」
ぶつぶつ独り言を言いつつ黙々と書類を打ちこむ。
時計を見てそろそろ切り上げて帰ろうかと思った。
背もたれに仰け反って大きく伸びをしたら背骨がボキボキ音を立てた。

「ま、所詮は他人事やしな。」
そう呟くと水谷和美の事を考えることを止めた。
51投稿者:再会46  投稿日:2004/01/19(月)20:57:54
家へ辿りつくまでに途中のポストにハガキを投函した。
取り敢えず、市島と須藤には連絡をしてみようか。
彼らがまだ出欠の返事を出していないなら誘えばいいし
ひょっとしたら先輩で誰が来るかとか知ってるかも知れない。

須藤はコーラス部部長をしていたので先輩後輩とも
交流が深かったと記憶している。
なんせ彼はマメな男だった。しかし時にはそれが鼻につくというか
「それ、そこまですんのか?」みたいな事もあって
それを市島は「あいつは何か好かんのや!」と言っていた。
ところが、よくつるんでいたし、本人を目の前にして
「お前のそういう所が嫌いなんじゃあ!」と言い放っていた。
まあ、結局は仲が良かったのだが。

須藤の所へ電話をすると奥さんが出た。
「私、○○大学コーラス部でお世話になった杉田と申しますが・・・」
「あら、いま帰ったところですのよ、少々お待ちくださいませ。」
きれいな標準語のアクセントだった。確か須藤の奥さんも関西人だった
筈なんだがと違和感を覚える。
いや、でも良い所の「お嬢さん育ち」だったかと思い出した。
52投稿者:再会47  投稿日:2004/01/19(月)20:58:37
「おう、何や杉ちゃん久しぶりやんか、どないしたんよ。」
比較的スローな喋りかたのよく通る声が返ってきた。
「ボチボチやってるよ、仕事のほうは、まあ・・・・」
近況報告がてら仕事や業界の話を一通りした後、本題に移る。

「でやな、OB会はどないすんの?俺はいくけど。」
こう言うと電話口の向こうでしばらくしてから
「いや、俺なあ、行きたくても行かれへんねん。」
といかにも残念、といった返事が帰ってきた。
「何やねん?仕事か?」
「ああ、ちょっとその日は出張が入っていてなあ・・・」
仕事が入って入るのなら仕方ない。
「出張て何処よ、東京とかあっちのほうか?」
見当もつかないので適当に地名を挙げると
「あのな。ドイツやねん。」
「ド、ドイツ?!ドイツ言うたらあのドイツ?
 いっひ れるねん どいっちぇ。のドイツかいな。」
旅行でハワイにすらに行った事のない僕にとっては
外国に、しかも仕事で行くなんて全く想像もつかなかった。
53投稿者:再会48  投稿日:2004/07/12(月)18:14:46
「うち、外資系やからなぁ、本社もあっちな訳やし・・・」
決して自ら進んで「出張」に行くのじゃなという口ぶりで
入社してから現在の部署に転属されるまでの経過を
愚痴っぽく話した。

「ドイツに行くのんやったらドイツ語喋らなあかんのやろ?
 大丈夫かいな、ちゃんと会話とか出来んのか?」
一般教養の必須科目でドイツ語は学んだとは言え、とてもじゃないが
「会話できる」レベルのものではなかった。
須藤は僕と違って「NHKドイツ語講座」を視聴してたらしいが
それでもたったの1年間でそれだけ上達してたとは思えない。

「会社入ってから、ドイツ語やり直したとか?」
「いやぁ、ドイツ語なんか話さへんよ。全部英語やからな。」
心配するな、という風に須藤は答えた。
どうやら、世界の共通語は英語なのかもしれない。

「残念やけど、皆に宜しく言うといて。」
OB会は欠席する、と未練がましく念を押すように
僕に言ってから須藤は電話を切った。
54投稿者:再会49  投稿日:2004/07/12(月)18:42:23
これで「OB会に誰が来るのか知ってるかも知れない」人物が消えてしまった。
同期の女の子にいきなり電話するのもなんだか気が引けた。
「ダメもと」で市島に聞いてみることにする。

「もしもし、市島さんのお宅でしょうか?」
「おう、杉やんか。何ンやねん、かしこまって?」
「OB会は行くのやろ?」
「一応、『出席』でだしたけど・・・・・・分からん!」
「何それ?ドタキャンかいな?」

どうやら、「知ってる人が来るのかどうか」で、まだ引っかかってるようだ。
確かに、行ってみたはいいけども、年代の違うOBばっかりで
独りだけで浮いてしまうことがあるかもしれない。
 それよりも、市島に「誰が来るのか知ってるか」という質問をする事自体が
最初からナンセンスだった訳だ。

「すくなくとも俺は行くからな・・・だから君も来たまえ!」
おどけた口調で市島に言うと、電話の向こうで
「わかったわかった」と相槌を打った。
55投稿者:ぃゃ… 投稿日:ぃゃ…
ぃゃ…
56投稿者:再会50  投稿日:2004/07/12(月)20:52:22
月末が近づくにつれ、処理すべき書類との格闘はさらに激しさを増す。
半期の仮決算月だから尚更である。
 しかし、ここ数年の「経費削減」のせいもあって、営業部からの
いわゆる「接待経費の書類」はかなり少なくなっているので、処理する量は
昔に比べればかなり減ってると言ってもいいだろう。
まあ、その他の書類等は相変わらず減っていないのだが・・・

とりあえず、サービス残業も加えて順調に仕事はこなせているし
、どうやら大手を振って休めそうである。

「杉田さん、まだかかるんですかぁ?」
水谷和美が僕に声を掛けて来た。
「いや、まあ、ええと、何か?」
この半月程は、社内で一言も喋らないほど「集中して」仕事していたので
突然話しかけられて、一瞬返事に詰まった。
「最近、ずいぶん根詰めて仕事してはるじゃないですか・・・息抜きしません?」
「え?いやまぁそうやねぇ・・・」
「それじゃ、15分後にここを出ましょ。
 『ハナキン』なんだからたまには羽を伸ばさないと・・・」
彼女は半ば強引に決めると更衣室の方へ姿を消した。
57投稿者:再会51  投稿日:2005/05/30(月)22:52:55
デスクのパソコンの電源を落とす前に、メールのチェックをしてみた。
「新着メールはありません」
まあ、返信メールを打ちこむ時間がそんなにないからよかった。
あわてて文章をでっちあげてメールなんかしたら、誤字脱字だらけになるだろう。

電源を落としてデスクの上を片付けていると、身支度を終えた水谷和美が
やって来た。
「おまたせ、じゃあ行きましょ。」

彼女が先に立って歩きだした。今日は彼女の方がリードするような具合で
なんだか少し新鮮に感じた。
「杉田さん、焼き鳥屋さんでいいですかぁ?」
ああ、焼き鳥はしばらくぶりだからいいね、と相槌を打つか打たないかのうちに
二人揃って縄のれんをくぐっていた。
「えっと、杉田さん飲み物は?」
「生ビールがいいな。」
「すいませ〜ん、生ふたつおねがいしまぁす。」
なんだかいつもと勝手が違うので妙な気分だ。
いや、彼女のテンションがいつになく高かった。どういうのだろうか、
から元気というかなんというか、違和感すら感じた。
58投稿者:再会52  投稿日:2005/05/30(月)23:16:27
しばらくは、取り留めの無い芸能人のゴシップやニュースの話をしていた。
僕は焼き鳥とビールでかなりお腹が大きくなってきていたのだが
それでも彼女はまだまだいけるらしく、焼き鳥を追加注文した。
会話が途切れた。
ここで「いま、天使が通ったよ」なんて言うのがいつものパターンだが。

「あの・・・水谷さん、今日は何だかしれないけど、」
「ごめんなさいね」
僕が聞こうとした事を察したのか即座に答えた。
「また杉田さんに話を聞いてもらおうかと思ってたんですけど・・・
 今度の日曜日に彼のところに行く事にしてたんですよ。
 でも何だか妙にテンション上がっちゃって・・・ゴメンなさいね。」
「いや、そんなん全然気にせんでええよ」
そうか、以前言ってた「決着をつけに」行くのか。
そりゃ情緒不安定にもなるだろう。
「で、やっぱり彼に言うてみんの?」
おそるおそる尋ねてみた。
「勿論です。腹は括ってますから・・・って言うかもう決めちゃってるから
杉田さんに相談も何もないんですよねぇ。あ、決意表明ですよ決意表明。
『水谷、行きまぁーす!』なんて。」
59投稿者:再会53  投稿日:2005/05/30(月)23:35:21
彼女はおどけてそう言って見せた。

だが、僕の目には強がっているようにしか見えなかった。
おそらく彼女は、結果的に自分で自分の恋愛に幕を引くのだろう。
彼女自身、「終わりだ」ともう感じている筈だ。
 彼女がどの程度、彼の事をまだ思っているのかは分からないが
ひとつ端から見て分かるのは、彼の気持ちはもう水谷和美から離れている。
それがどれくらいなのかは分からないが。

僕は「振られた側」の人間だったから、もし彼女が振られたとしても
多少は気持ちは分かるだろう。
しかし、「自ら振られに行く」ような結果になるような行動を起こす事は
とても出来ない。いや、向こうから「言ってくれるのを待つ」ことしか
出来ないだろう。
つまり、僕は「ずるい」人間なんだろう。

「なぁに杉田さんが真剣になってるんですかぁ?行くのは私ですよぉ」
彼女はそう言いながら僕の肩を軽く叩いた。
「そやな。」
笑って見せてから、他の話題に移った。
60投稿者:再会54  投稿日:2006/04/10(月)20:56:23
 ふたりで、まるでカラ騒ぎのような時間をそれから過ごす。
僕自身は、「楽しい時間」を過ごせたことに間違いなかった。
ただひとつ、自分の中でひっかかっていたのは
水谷和美が今の恋愛に終止符を打つ事を、どこかで期待している
ということだ。

……人の不幸を望んでいる? いや、そんなんじゃないだろう。
そんな事をうっすら思いながら、彼女を梅田駅まで見送った。
「それじゃ、おやすみなさぁい!」
彼女は改札をくぐった後、振り返って大きな声で言った。
僕は軽く手を振って応える。
休みが明けて出社して来た時、彼女はどんな顔をして
出てくるのだろうか。

そして、彼女が彼氏と何ヶ月ぶりかで再会している時に
自分は何年かぶりで、大学のコーラス部の先輩、後輩と
おそらく、喜び合いながらの再会をすることになる。
別にどうという事はないのだが、何だかモヤモヤした気分だった。
61投稿者:再会55  投稿日:2006/07/11(火)19:15:34
OB会当日の日曜日の朝。
どう言うわけだか、休みの日の朝はとんでもなく早い時間に
目が覚めたりする。時計を見ると5時を廻ったところだった。
二度寝しようかと思ったが、妙に目が冴えていた。
布団から出て窓のブラインドを指で開いて外を見た。快晴のようだ。
「よし、行くか。久しぶりに。」
僕は独り言を言うと、オーディオ・セットの上にオブジェのように
置いてあるヘルメットを手に取った。
一番最近にバイクに乗ったのは、ゴールデンウイークの時だ。
4ヶ月以上も動かしていないので、すぐにエンジンが掛かるかどうか
微妙なところだ。

家の敷地内に銀色のカバーを掛けた僕の愛車がある。
カバーを外すと、うっすらと埃を被っているように見えた。
キーを廻すとポジションランプが点灯したが、あまり明るく見えない。
バッテリーが心配なので試しにセルボタンを押してみる。
キュル、キュル…
スターターが弱々しく廻った。すぐにセルボタンから指を離す。

「こりゃ手際良くやらなきゃダメかもわからんな」
62投稿者:再会56  投稿日:2006/07/11(火)19:33:38
車戴工具の六角レンチを取り出す。
キャブレターのフロートチャンバーの下にあるドレンボルトを緩めた。
ボルトの付け根からガソリンがぽたぽた落ちてきた。
そのガソリンを指に付けて臭いを嗅いでみる。
 思ったとおり、灯油のような臭いがし、指に息を噴きつけても
指先からガソリンはすぐに蒸発しなかった。
キャブレター内のガソリンが劣化してるという事だ。
四気筒分すべてのキャブレターのドレンボルトを緩めて
ガソリンを空にした。

ドレンボルトを締めなおす。
そして燃料コックを「PRI(プライマリ)」の位置に廻した。
これでガソリンタンク内の新しいガソリンがキャブレター内に
スムーズに流れこむ。

チョークレバーを引き、クラッチを握って
3速にシフトペダルを蹴り上げた、通常、押し掛けを行う場合は
2速でするのが普通だが、3速のほうが具合がいい。
63投稿者:再会57  投稿日:2006/07/11(火)19:53:03
ゆっくりと大通りに向かって、バイクを押し歩く。
ブレーキのディスクローターにサビが浮いていたせいか
フロント廻りからシャリシャリという雑音がしている。
「よし」
力を込めて地面を蹴り出す。勢いをつけたところで
クラッチを離す。
ボボッ…ボボボボ
車体に抵抗がかかり、エンジンが咳込んだ。
しかしまだエンジンは掛からず、今にも止まりそうになった時
素早くクラッチを切って、再び地面を蹴って速度を上げる。
そして、2回目にクラッチを離すとエンジンは目を覚まし
タコメーターは6,000回転まですぐに撥ねあがり、早朝の街に
排気音が遠慮無く響いた。
「意外にあっけなく掛かったな」
チョークレバーを戻して通常のアイドリングまで回転数を落とした。
そしてガソリンコックを「ON」の位置に戻しておく。
64投稿者:再会58  投稿日:2006/07/11(火)20:06:03
大通りの路肩に停めてしばらく暖機運転をする。
その横で僕はストレッチ運動をしていた。
街路樹でスズメがさえずっていて、新聞配達を終えた若い男が
自転車で通りすぎる。

まだ街は静かだ。
僕はヘルメットを被り、グローブを着けた。
この「グローブを着ける瞬間」がぼくはたまらなく好きだ。
この時、自分のなかのスイッチが入る、というか
「いまから『非日常の世界』へ行く」と感じるからだ。
バイクに跨ると、ゆっくりと走らせ始めた。そう、ゆっくりと…

早朝だけあって、車も殆ど走っていない。
平日ならこんな時間でも長距離トラックが走ってることがあるが
日曜の国道2号線はガラ空きだ。
「ちょっとくらいなら、いいよな?」
回転数を上げ、パワーバンドに入った時の加速感を楽しむ。
ガラガラの対向車線を、もの凄いスピードで擦れ違う
リッターバイクが数台いた。
この時間、考える事はみな同じだ。
65投稿者:再会59  投稿日:2006/07/11(火)20:33:09
国道2号線をしばらく西へ走った後、右折した。
目的地は六甲山。
住宅街を抜けていくと、やがてあちらこちらに畑が見えてきた。
そのうち「山の匂い」が鼻をくすぐりはじめて、有料トンネルへの
分岐を示す看板が見えてくる。

信号を左折して道が大きく右にカーブした先に、路肩を
広く取ったスペースがある。ここはもう六甲山の麓だ。
僕はいつものように、そこにバイクを停めて小休止した。
もう一度念入りにストレッチする。
「まあ、熱くなりすぎんことやな」
誰に言うでもなく呟いてからバイクに跨って走り出した。

もっと若いうちからバイクに乗っていればな、と時どき思う。
六甲で走り始めてから何とか「ちょっと遅い」という程度になった。
いや、走りだしたころは「ど下手糞」だった訳なんだが……
でも、若いころだったらもっと無茶をして大怪我をしたかもしれない。

そんな事をぼんやり考えているうちに急勾配の「ダブルヘアピン」が
近づいてきた。僕は丁寧にブレーキングして舐めるように廻っていった。
66投稿者:再会60  投稿日:2006/07/11(火)20:51:26
その後の、やや長い直線を駆け上がると、急に気温が下がってきた。
やはり山の上は肌寒いようだ。
木陰と日向では体感温度がかなり違うように感じる。
厚手のジャケットを羽織ってきたほうが良かったかもしれない。

やがて六甲山の頂上の「一軒茶屋」に着いた。
ここで小休止するのも、いつものパターンだった。
路肩にバイクを停めると、取り敢えずヘルメットを脱いだ。
山の風と匂いが心地よかった。そこから下界を見下ろすと、
どんよりとした空気の海の底に、目覚めたばかりの街があった。

「そう言えば、大学1年生のとき自転車でここまで来たんだよな」

大学1年の夏休みのある日、独りで来たのだ。
とにかく小さい頃から「2輪」が好きだったので、自転車も
ドロップハンドルのロードレーサータイプに乗っていたのだ。
後に同じゼミになったサイクリング部の知人にこの話をしたら
「なんで杉ちゃんもうちのクラブに入らなかったんよ?」
と言われたことがあった。
67投稿者:再会61  投稿日:2006/07/11(火)21:12:15
それよりも、大学へ入ってからすぐにバイクの免許を取ったが
バイクに乗るようになったのは、社会人になってからだ。
 もし、学生時代にバイクを手に入れていたらどうなっていただろう?
もっと違う学生生活を送っていたのだろうか。
 例えば、コーラス部なんかに入ることはなかったかもしれないし
勉強以外の事はすべて、バイクを中心としてたんじゃなかろうか。

……こんなことを幾ら考え、想像したってなんの意味も無い。

 再びヘルメットを被ると、「走り屋」たちが居る道に向かっていった。
ちょっと前はヘルメットに「耳」や「アンテナ」を付けたツナギ姿の
小僧たちが膝を擦ってたものだが、今はリッターバイクに乗った
「高速ツアラー」たちが殆どだ。
 僕はアベレージスピードを上げて右へ左へをマシンを寝かせこむ。
ステアリング操作、サスの動き、加重移動。これらがバッチリ決まると
マシンが鮮やかに切り返しできる。これがバイクの醍醐味。
 しかし、程なく腕と脚に疲れが出てくる。
「運動不足、いや、歳はとりたくないもんやなぁ」
アベレージスピードを落とすと、帰宅の途についた。
まだ朝の早い時間とはいえ、準備はちゃんとしておかねばなるまい。
68投稿者:再会62  投稿日:2007/11/12(月)20:43:00
下りのストレート。当たり前だがスピードが乗りやすい。
スロットルを開ければ、排気量の大きなパワーのあるバイクに
乗っているような錯覚がする。文字通り胸のすく加速感。
だが、当然ブレーキはシビアになる。
必要以上に、前に荷重がかかり前のめりになろうとする上体を
支えるのも結構大変だ。
ブレーキレバーを強く握りこみ、フローティング・マウントされた
ディスクローターが「ミュー」と悲鳴のような音を立てて
なんとか平地と同じような感じで減速、というところだ。
そして、下りのカーブでは荷重バランスが前よりとなるし
乗車姿勢も平地や上りとは異なるので、操るのが難しくなる。
 僕は未だに下りのコーナーは苦手だ。
急勾配のダブルヘアピン。
後続車もいなかったので、それこそ歩くほどのスピードまで
減速してゆっくりと慎重に廻っていった。
ここを過ぎれば、あとはもう大した場所はない。
そう思いながら、ふたたびアベレージスピードを上げた頃には
気温もだいぶ上がってきたようだった。
69投稿者:再会63  投稿日:2007/11/12(月)20:45:28
街中を家に向けてバイクを走らせていると、少し汗ばんできた。
今日もかなり暑くなるのか?
ましてや、京都はこっちよりも気温が高いことの方が多いし
スーツなんか着こんで行かない方がいいかもしれない。
今日の格好をあれこれ思案しなおしてるうちに家の前に着いた。
フルフェイスのヘルメットを脱ぐと頭が蒸れていることを自覚した。
髪型はぺしゃんこに潰れて河童のようになっているようだ。
まあ、いつものことだが。

家に入ると、母が慌しく出かける支度をしていた。
「なんや、外に出てとったんかいな。
 あんたも昼から出掛けるのやろ、戸締りちゃんとしといてよ。」
母は、出かけるときになって何で電話が掛かって来るのやろ、とか
あー、いっつも時間ギリギリになるわ、とか誰に言うでなく
声に出して家の中をひと通りゴソゴソした後、
「あんた、晩ご飯はどないすんの?」と訊いてきた。
ちょっと考えてから
「食べてくるかも、いや、そうした方がええやろ?」
そう答えたら、それじゃそうしておいて、と言い残して
母は出掛けて行った。
70投稿者:再会64  投稿日:2007/11/12(月)20:50:31
誰も居ないリビングで、テレビを眺めてぼんやり時間潰ししてると
うつらうつらしていた。
気がつくと、いつの間にか結構時間が経っていた。
シャワーを浴びてから身支度する。堅苦しいスーツはやめてカジュアルな
格好で行こう……失礼にはならない程度で。
下は色の濃いジーンズで上はノーネクタイ、夏物のジャケットを選んだ。
暑ければジャッケットを脱いで肩にでもかければいい。
関西地方は全国的に快晴らしかったので、折りたたみ傘を
持っていかずに小さなセカンドバックを手にして家を出た。

大阪に出てから先はJRに乗り換えだ。
今まで何回この路線を行き来したのだろうか。
学生時代の通学電車のことを思い出す。よくまあ、下宿しないで
4年間通ったものだ。片道1時間半はかかっていたのだ。
電車内の時間てのを、もっと有効に活用すべきだったなと今になって
思う。英語の予習や読書に充てていたが、寝てるほうが多かったから。
 車窓から見覚えのある風景が見える。
記憶が呼び覚まされる。
秋には稲刈りが終わったあぜ道に、赤い彼岸花が咲いていたっけ。
大雪が降って電車が遅れたとき、子供がつくったのか雪だるまを見かけたし…
71投稿者:再会65  投稿日:2007/11/12(月)21:21:38
通学途中の想い出に浸りながら外を見てるうちに京都に着いた。
京都駅から地下鉄に乗りかえる。
思ったよりも少し早く着いたので、周辺を少し散策したのだが
さすがに京都は暑く、汗はあまりかかない体質の僕でも
脇の下に汗をかいてるのがはっきりわかったので散策は切り上げて
会場になっているホテルへ入った。

ひんやりと涼しいホテルの中。
入った瞬間に、何やら妙な緊張感が自分の中に走った。
いや、緊張感というより期待感、と言ったほうが良いか…
会場は3階の宴会場のひとつ。
今日は結婚式の披露宴も多いようだった。幾つかの受け付けを
見渡した後、会場を見つけた。
受け付けには三人ほど座っていた。
どうやら上の方の卒業年代の先輩方らしかった。
「どうも、こんにちは……お世話になります…」
そう言いながら、案内状を出して受付をしようとしたら

「おぉ、スギ!! 久しぶりじゃんか!」
と、真ん中の男の人が声をあげた。
72投稿者:再会66  投稿日:2007/11/12(月)21:40:07
額の広い、ちょっぴりおなかの出た男の人だったが。

「え?、ああッ! は、橋本先輩?!」

僕はわざと大袈裟にしてるんじゃないかと、思われてしまう位
本当に驚いてしまった。
学生時代は、下級生の女子部員の人気ナンバーワンだった先輩。
美声の持ち主であることはもちろんだが、爽やかな風貌と
引き締まった体は同性の僕からみても憧れたものだった。
それが、髪の薄い太った中年へと変貌しつつある途上に……

「橋本先輩、えらい変わらはったってゆーか…えーと」
なんとか当たり障りのない言葉を選ぼうとしたら
「結婚したらなぁ、こうなってしまうんだよ。ハハハハ」
先輩は笑いながら自分のお腹をさすって見せた。

「幸せ太り、ってやつですよね。いいですやん、幸せそうで」
頭の事は触れず、体型のことのみに話題を振った。
「そのうち、俺も市島みたいな体型になるかもな……
 あいつも今日来てるで」
73投稿者:再会67  投稿日:2007/11/12(月)21:53:46
橋本先輩と手短に近況報告をした後、会場に入って
先に来ているという市島を探そうと思った。

会場はバイキング形式で、回りにテーブルが並べてあった。
幾つかのテーブルでは僕の知らない、かなり上の年代と思われる
先輩方が、すでにグループになって昔話に花を咲かせていた。
自分の年代に近い先輩、後輩そして同期は何人来るのか。
ちょっと不安になったとき。

「杉やん、こっちこっち」

隅っこの方のテーブルの傍に、椅子に腰掛けた体格の良い男が
こっちにむかって手招きしていた。
「市島、やっぱり来たんやな」
「いや、来るつもりなかったケドな、ヒマっちゅーか時間できたし」
笑いながらそう言うと、ポケットからタバコを出して火をつけた。
「……あいかわらず、セブンスターか」
そう市島に言うと
「軽いのに替えようとしたけど、やっぱりこれに戻るわ」
目を細めて美味そうにタバコを吹かした。
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